杉山洋子料理工房 -FOOD TALK-
教室でお料理を教えたり、世界の「食」を求めて旅をしたり、 また日常生活の中から役に立つアイデア、新しい発見、感激など、「食」に関するエッセイをお届けします。
毎年9月のLABOR DAYの週末のあとは、ポートタウンゼント(Port Townsend)で行われる木でできた船が集まるイベント「Wooden Boat Festival」に参加する。 地元、ノースウエストはもちろんのこと、世界のどこそこから来た船も参加とかで楽しいフェスティバルに、私もDOLLY号を駆って馳せ参じる。 今年で連続5回目だ。
思えば、初めてこのポートタウンゼントの港(ポートハドソン)に来たのは35年も前、シアトルからSANTANA 27にゲストクルーで乗って、 ビクトリア・スタートの世界的なヨットレース「The Swiftsure Yacht Race 」に参加するために寄港した時だった。 港はなぜかのんびりしていて、何でも屋のような食料雑貨店があるのみだった。町のほうに歩くと、赤い灯台が丘にあったのが印象的で、 それをバックに写真を撮ってもらった。
アイダホフォールズコア
今年は港もリニューアルの工事が終わって、新しいよい港になっていて気持ちいい。はじめてこのフェスティバルに参加する年、 仕事で行けなくて心配する主人を後目に、午後12時には出航しないと潮か変わってしまうので、大急ぎで用意してマリーナまで車を飛ばし、 どうやらひとりで出航した。DOLLY号には小さな小さなエンジンしか着いていなかったので、約6時間ほどもかかった。一泊目は、おきに入りのポートラドロー。 DOLLY号で入港すると、たちまち『すばらしいこの船は誰の船?』『JOHN(船のデザイナー兼制作者で、ノースウエストのヨット界では、 知る人ぞ知るセーラー)は元気?』と人が尋ねてくる。
ニス塗りのきれいな船を買った(というより、主人に買ってもらった)のは、11年前のこと。昔日本で乗っていた36フィ−トのヨール、 日本の外洋帆走クルーザーの草分けの名艇『ミネルバ二世』のミニチュアのようでノスタルジックな艤装、木目がすばらしく美しく、 誰が作ったのかも知らず、ただただ、感服してしまったからなのだが、その一年後、陸からフェリーを乗り継いで行った「Wooden Boat Festival」 で、はじめてDOLLY 号の作者、John Guzzwell 氏と出会ったのであった。彼は『Endangered Species』という30フィートのレーサーを完成させ、 その船を展示していた。そして自己紹介をして、主人共々、船に招き入れられ話を聞くことができた。 それ以来、彼は私にとってこのシアトルでのYachingといおうか、Sailing のメンターとなった。
どのようにマラッカになりましたましたか?
John Guzzwell 氏は、もう半世紀も前、当時、世界でも一番小さなヨットを作って、ビクトリアから出航し、 4年かけて世界一周してきた人だ。そしてそのヨット『Trekka』は、今、ビクトリアのマリタイム・ミュージアムに展示されている。 彼の快挙は堀江健一さんが『マーメイド』を駆って太平洋を横断したよりずっとずっと以前の話である。 彼が執筆し、1959年にイギリスで出版された『Trekka』は絶版となったが、数年前、ペーパーバックとして再出版されたのは、 今なおセーラー必携の書と喜ばれているからこそ。そしてその本にDOLLY号も載っている。
話があちこち飛んだが、ポートラドローでは、いつもハーバーマスターやスタッフに親切にしていただく。 また、ここはリゾートのいいホテルとレストランがついていて、夕方船をこじまいして、夕日を見ながらデッキのテーブルで、 アペタイツアーとワインを傾け、我が艇の舫われているほうを見ながら、至極のひとときである。
水の滝ハワイの下に立つ
ある年は、まぜ(南からの風)がおっそろしく吹いて、サンタバーバラからやってきた友人がはなはだおっかながるので、 『大丈夫、大丈夫、これはクルーザーでひっくりかえりはしないよ。まして、この私は女だてら20代のころ、台風が来るというとディンギーを出し、 商船大学ヨット部のキャプテン(ゴリラのように大きな人で重しがわり!)にクルーを頼み、須磨の海を滑走したものよー』と 彼女を安心させて、ほうほうのていでポートラドローにかけこんだこともあった。そんな荒れた海から船をスリップに舫って、 ほっとしたこともある。また主人が乗った時にはたまたま結婚記念日にあたり、着いてシャンペンで乾杯したこともあった。 ここのレストランのメニューは、気が利いていてうれしい。一日、海で風にふかれ、入港した後のおなかの好き具合もすばらしく、人生至極のダイニングの時でもある。
昨年はDOLLYを持って10周年。その記念に神戸から大昔の友人がやってきた。 あとでわかったことだが、なんと彼女は70歳にもなっていた。 バーバクルージングと銘打って、安全に帰港した時はまた乾杯だった。
今年はフェスティバルの2週間前に船を持って行き、新しくオーナーと名前がかわった「SEA MARINE」でホールアウトし、船底を塗ってもらった。 LABOR DAYの連休、主人をさそってSEQUIM のJOHN WAYNE MARINAまで足をのばすことにした。あのあたりは、ダンジネスクラブがよくとれるところだ。 クラブポットを持ってくるのを忘れたので、シーズン最後のクラビングは、あきらめだった。行く途中、海藻の大群に襲われるというか、 突っ込んで、まるでディズニーか、スピルバーグの映画の中にいるようだった。こんなクルージングでも大冒険した気分だった。 このクルージングのあと、ふたたび、主人よりお先に今度は、ミニクーパーにJOHN GUZZWELL氏が3年前につくってくれたディンギーpetite dollyをのせて やってきた。まさに母子の船でとってもキュートだ。
フェスティバルは大人も子供も楽しめる。また、いろいろなレクチャーもあり、興味のわくクラスにあちこち参加する。船に帰ってきてはゲストがいっぱい来る。 今年の楽しみは、このフェスティバルのディレクターであるKACI CRONKITEさんの5年かけて世界一周してきたときの話とスライドショー。 レクチャーのあと、夕方、彼女がやってきて、主人差し入れのワインとチーズ、シアトルからもってきたとれとれオーガニック・アップルとスモークドサーモンで、 船上のハッピーアワー。ドックを行き交う人々にとっては、うらやましそう。ごめんね。
普段、料理教室をしていて、いつも、料理、料理と頭から料理がはなれないので、船に来た時は、極力、料理しない料理をする。ただ切って出すだけとか、 お湯をわかすだけで、すませるものとか。朝起きたらお湯をわかして、(これがちと難儀、DOLLYにはアンティークのはなはだのんびりしたアルコールの ジンバルストーブがついていて、毎回、火をおこすだけでも、腕力と忍耐がいる)、魔法瓶に緑茶をつくっておく。そして、やおらコーヒーもつくる。 それさえあれば、海の上にいてもドックにいても、一日中ハッピーなのだ。
フェスティバルでは、いろいろ屋台のブースがでるが、結構いいよ。 今年は8月の終わりのクラスにベービーバックリブをホットスモークするレセピーを完成させ、 ある生徒さんにいわせると、テキサスにある大好きなレストランのより、おいしかった!といわしめたものだが、 なんのなんの、ここで味見したリブは、じっくり数時間もかけて、スモークしてあったので、なかなかおいしい。わたしのより、まだ上を行く。 そうだ。次回、家で作るときは、じわーっとスモークすべし!と、 こんなことをフェスティバルで習うのだ。
まだまだ書き足りないが、あさってからパリ、そしてスイスのVEVEYでコンフェランスに出かけるので、ここらでやめておこう。パリでは、かのALAIN DUCASSEのクラス他を取りに。授業がフランス語のみなので今からクッキングの語彙のブラッシュアップをしなければ。そういえば、昨年のボルドー、 続きをまだ、書いていなかった。1年もたつと忘れてしまいそうだが、また時間をみつけて、書き留めたいことがあるのでそうしよう。
2007年9月
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